部活とUの話



高校時代ほぼ毎日一緒に過ごした部活の同期とは、部活動引退後あっという間に長期休暇に一、二度に会うだけの仲になった。


今までずっと4人揃わなければ遊びに行く予定は反故になっていたから、1人は地方の大学に入学と相成り、なんとなく3人で遊ぶのに違和感が拭えずこのように一気に疎遠になってしまった。

いや、もともとあまり仲が良く無かったのかもしれない。

4人が4人とも部活動以外に接点は無く、クラスが一緒になっても喋らなかっただろうねと互いによく言い交わしていた。





Uは私にとって「クラスが一緒になっても喋らないタイプ」の最たる人物だった。



中学では調理部に所属しており、高校でも文化部を考えていたが、新入生勧誘会でハンドボールのデモプレーを見、先輩のかっこよさに惚れて入部を希望したという青春のきらめきそのもののような女の子だった。


可愛い顔と可愛い声で、部活動以外にも文化祭の実行委員会に参加するなどコミュニティか広く、(私は一切知らなかったが)三年間ほぼ途切れず彼氏がいた、そういう女の子だ。



ハンドボールは激しい身体接触の多いスポーツでその上運動量も多い。


彼女は入部後すぐシンスプリントを発症し、ずっと脚の痛みと付き合うハンドボールプレイヤーになってしまった。


このシンスプリントは運動をあまりしていなかった人が急激に強度の高い運動をし始めるとなるため、受験を終えて高校の運動部に入った一年生はよくかかるものだった。完治するものでは無いけれど、付き合いながらスポーツをしていくことは可能だ。


けれど、顧問の先生はたまに応援に来てくれるおじさん先生だけで、彼女は頑張りの限度も自分の強さも弱さも何も分からないまま悪化の一途を辿ってしまった。




さらに、たった4人の部員体制となり休むことも許されなくなった。私も彼女に休養を提案したくは無かった。自分らの練習が出来なくなるからだ。試合に出られるわけでも無いのに。



どれほど痛いのか、私は知らない。

Uが毎日早めに部室に来て丁寧にテーピングしているのも休憩中ずっと手癖のようにマッサージしているのも見てきたけれど、知らないから私は無理しない範囲で、と言いながらも練習を強いることしかできなかった。




私たちはよく話し合いの場を設けていた。

マネージャーで入部して途中から無理やりプレイヤーに転向してくれたRが頻繁にミーティングを開催してくれていたのだ。



夏休みが終わったころ、試合に出るには合同チームを組んでくれる高校が現れるのを待つのでは無理だとUが口火を切った。


そして色々な話をしてようやく私たちはぼぼ半数を助っ人で補うことになるが公式戦へ向けて動き出すことができたのだ。



その時のUの言葉が忘れられない。男子部の人に、何のために練習してるのか聞かれて私は何も答えられなかった、と悔しそうに悲しそうに言ったのだ。

ああ、本当に申し訳ないことをしてると一番胸に刺さった。


部長“らしい”ことの大体はして来たつもりだったけれど、本当にしなければいけないことや考えなければいけないことに何一つとして向き合ってこなかった。



全くの余談だが、これを言った男子が私が知らされていなかったUの何人目かの彼氏だった。




そういう訳で私はUに対して並々ならぬ尊敬の念を抱いていたし、それと同時に劣等感や後ろめたさを強烈に感じていた。





そのUと私は4人の中で一番距離の近い大学に進んだ。



Uはどの環境でも友達ができ、ケロリと以前のコミュニティとの関わりが薄くなるらしい。

可愛い見た目とは裏腹にとても強かで男前でクールで淡白なオンナなのだ。

(というのは卒業後にRからいろんな話を聞かされて知った。)



大学に進んでからもRはよく皆に連絡をくれた。

そして毎回めちゃくちゃ久しぶりだね!という挨拶で再会した。



前述のような片鱗は部活を抜きにして会って初めて私にも何と無くわかるようになった。


そして秘密主義で、ごめんちょっと、と可愛い声でお茶を濁すことがとても多いことも分かった。


低頻度でも会うたび大学生活があまりうまいこといってないようであることをはっきりと伺えたけれど、その理由は一切話してもらえなかった。





そして急に連絡がつかなくなった。




私とのLINEのトークルームが動かなくなった半年後、RがUから連絡が来た!と大騒ぎしながら伝えてくれ、近況を電話で報告しあったそうだ。

そしてなんとかRが調整をしてくれて私も合わせて三人で会う約束をした。

結局その日は集合時間に遅れる、という連絡がRにきたあと、21時を過ぎてもUが待ち合わせ場所に現れることは無かった。

そしてまたそれっきりでパタリと沙汰が止んでしまった。




とても強かで男前でクールで淡白なUはきっと元気に生きている。

同窓会で話を聞いた限りだと、割と普通に連絡が取れてる人もいた。





やはりUにとって高校の部活動はサイテーな思い出なのだろうか。

二度と会わないという言葉の無い意思表示こそがその答えであるような気がして


それともそらはただの自意識過剰というやつで、Uはクールに人間関係を整理しただけなのだろうか。





私はいつかトラウマから救われたい。だからみんなの遣る瀬無さが薄まった未来に絶対さりげなくこっそりと許しを乞おうと思っている。

しかし一番大きくて重いUへの罪悪感からは、忘却以外のものをもって逃れることはできないのかもしれない。





次の夏期休暇、初めて3人だけで計画をした3人だけの旅行をする。



私も他の2人もきっと拭いきれない違和感を抱くのだろう。